衝撃的なストーリーで賛否両論の多い作品となってしまった『The Last of Us Part II』。
あまりにエグい展開が続くため、私も序盤からクリアまで怒りと悲しみと虚無感が入り乱れる複雑な感情のままゲームに没頭していました。
レビューを見てみるとどうしても賛否の“否”が目に付くことが多いのですが、このゲームに対する意見、感じ方が人それぞれで目を通してみると面白いものです。
発売してから1ヵ月以上経ち、そろそろクリアした人も多くなってくる頃なので、「ストーリーの考察」と、私なりの「レビュー」をネタバレありでやっていきたいと思います。
記事を書いていたら大変長くなってしまったため、【考察編】と【レビュー編】の二構成でいきます。
※ということで、今回【考察編】を始めますが、エンディングまでの重大なネタバレが含まれていますので、未プレイの方はご注意ください。
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なぜ「エリー」は復讐をやめたのか?
物語の大きなきっかけとなる「ジョエルの死」。これはエリーだけでなくプレイヤー自身にもアビーに対する大きな復讐心を生み出すきっかけとなりました。
エリーはジョエルが殺された後、「あいつらを見つけて殺してやるんだ、必ず、最後の一人まで」と言うくらいのとてつもない復讐心に取りつかれていました。
この荒廃した世界では、誰かが突然死ぬ、殺されるということは身近にあったことでしょう。
それは、ジョエルもエリー自身もそうです。死は身近にあるもので、受け入れなければならないものだったと思います。
しかし、強き父のような存在であったジョエルが見ず知らずの誰かに嬲り殺されるのを目の当たりにするというのは、復讐に十分な理由になりますが、この復讐の大きな原因となったのはそれだけではなく、「ジョエルとの疎遠」も原因であったと思います。
寄生菌のワクチンを開発するためのファイアフライの病院で、エリーの死で世界を救うことよりもエリーを生かす方を選び、対立したファイアフライを壊滅に追いやったという真実をジョエルが話したシーン。
前作のエンディングで「あたしはまだ待ってるの」と、自分は死ぬべき運命であるようなことを言っていた通り、“死ぬことで自分の生きた証を残せたはずだった”という事実を知り、これをきっかけに二人の仲は悪くなってしましました。
前作のエンディングについて。
表情からして、エリーは“抗体を持つ人間は何人も存在し、ファイアフライは治療法の開発をやめた”ということが、ジョエルの嘘であることを察していたと思います。
しかしPart2で真実を知って激昂したことから、前作のエンディングでは“ジョエルの嘘を受け入れた”ように見えたこのシーンは、“ジョエルが言った嘘を事実だと信じたかった”のだと解釈できます。
だから、ずっとジョエルの嘘を信じてきたけど、改めてジョエルの口から真実を知ったことで、裏切られ、許せないという感情が芽生えたのでしょう。
ジョエルが死ぬ前日、エリーはジョエルにきつく当たってしまいます。
このように、喧嘩中の娘と父親のような少しギクシャクした関係が続いていたため、それをエリー自身もなんとかしようとしていました。(この後仲直りしますが後述に)
その後の「ジョエルの死」です。しかも目の前で嬲り殺されます。
ジョエルとの関係を修復しようとした矢先、このような事件が起こり、復讐心はより増幅されてしまったものと思われます。
このあとシアトルに赴き、着々とジョエル殺害メンバーを殺していきますが、ある事がきっかけでその復讐心に揺らぎが見える場面もありました。
妊娠中だったメルを殺してしまったことです。
彼女もジョエル殺害メンバーの一人ですが、殺した後に妊娠していると知ると激しく動揺していました。
トミーを見つけ、ディーナも妊娠中であることから、一旦復讐を諦める様子もありました。
そこに、潜入していたアビーが奇襲をかけてきます。
アビーは自分の仲間を殺した報復に来たのに、治療法がないのは自分のせいと言います。
アビーが復讐をする背景を知らないため、“世界を救う治療法を奪い、ファイアフライを壊滅させた”ことを恨んでいると勘違いしているように見えます。(トミーを逃がすため注意を逸らそうとしているとも考えられます)
しかし結局、ジェシーは殺され、トミーとディーナは戦闘不能、エリーも気絶寸前になるまで追いやられてしまいました。(アビー強すぎ)
妊娠していたメルを殺しておいて、ディーナは妊娠しているから殺さないよう言ったり、アビーが治療法を奪ったことで復讐していると思っていたりと、アビー編後のエリーがどこか空回りしているように見えるのは、復讐に捉われすぎてるのが原因、と感じました。
また、当初ジョエルを殺した張本人とやっと決着をつけられる待ちに待った「エリーvsアビー」戦が、なぜアビー視点なのかというのも、客観的に見て復讐に捉われすぎていた“悪”はアビーではなくエリーだったというメッセージにも感じました。
アビーとの決着の後、ディーナと新しい生活を始めたエリーは、復讐をやめたものの、ジョエルの死を忘れられず、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状に苦しめられます。
そこに現れたのが、アビーの情報を手に入れたトミーでした。(頭撃たれて絶対死んだと思ってました)
アビーの潜伏先を聞いたエリーは、トミーに「復讐するつもりはない」との意思表示をするも、後にアビーとの決着に向かってしまいます。
これは、PTSDの症状に悩まされ、ジョエルの死の苦しみから解放されるためには、アビーと決着をつけるしかないと思ったからです。表情からも決意の固さが窺えます。
アビーの潜伏先へ向かったエリーはラトラーズというギャング集団に捕らわれているという情報を手に入れ、アビーの元へ向かいました。
見る影もないほど痩せ細ったアビーを、一度救出し、ボートで脱出しようとします。
シアトル時のエリーだったら、捕らわれたアビーをめった刺しにしてもおかしくないですが、ここで一度助けたのは、自分と同じように疲弊し、変わり果てたアビーを見て、一度諦めようとした復讐を再開する踏ん切りをつけられない気持ちの変化があったのかもしれません。
しかし、ボートで脱出直前、死んだジョエルの顔を思い出します。
自分が何のためにここにきて、何をすべきかを思い出した瞬間だと思います。
そして物議を醸した復讐の決着です。
アビーは「もう戦わない」と告げるも、レブを人質にしてでもエリーはアビーと「戦う」ことを選びました。
「殺す」ではなく「戦う」ことを選んだのは、ジョエルの“復讐”よりも、自分自身との“決着”を付けたかったんだと思います。
結果、エリーはアビーに止めを刺す寸前まで追い込みます。
しかし、そこでエリーが見せた表情は、復讐をやり遂げる怒りの表情ではなく、泣きながら何かに苦しむような悲し気な表情をしていました。
ここで、思い出していたのは死んだジョエルではなく、ジョエルが死ぬ前日の場面でした。
前述通り、前日にエリーはジョエルを突き放すようなこと言っていましたが、その後、またジョエルと会っています。
ここで、病院での出来事のことを話します。
「あたしはあの病院で死ぬはずだった」「生きた証を残せたのに」「それを奪ったんだよ」
ここでもジョエルを責めてしまいます。
ここでジョエルが言った言葉に全米が惚れました。
「もしも神様がもう一度チャンスをくれたとしても」「俺はきっと 同じことをする」
どんな結果であろうと、何があってもエリーを救うという決意がありました。
これに対してエリーは
「一生そのことは許せないと思う」「でも…許したいとは思っている」
アビーが命がけでレブを守ろうとする姿を、かつて自分を守りながら国を横断したジョエルと重ねていたのではないでしょうか。
「許さないけど許したい」と言ったこの時の気持ちを思い出したのでしょう。
「もう行って」「あの子と一緒に」と言い二人を見逃します。
結果、ジョエルの復讐は成し遂げられませんでしたが、エリー自身の気持ちの決着はついたのだと思います。
本来だとジョエルとの回想はこの後になるので、復讐を目的としたプレイヤーからしたら「なぜ見逃すんだ!?」というモヤモヤが残ってしまうでしょう。
しかし、エリー自身の気持ちに決着はつき、アビーを許すことにしたと考えられます。
実はこのエンディング、開発途中の段階ではアビーはエリーに殺される予定だったようです。
“アビーを殺さない”という本作の復讐というテーマに背く結果になったのは、エリーというプレイヤーとしてではなく、エリーというキャラクターの人間性を重視したためと考えられます。
この後のエリーは、自分自身に決着はつけたものの、復讐は成し遂げられず、指を失い、ディーナも去り、一人になってしまいました。
このエンディングは、“復讐”という苦難の道のりを辿った末路としては、何も報われないあまりにも悲しすぎるものでした。
しかし、「“復讐”捉われ、残酷な道を歩んだ者の末路は、決して良いものにはならない」というメッセージにも思えました。
果たして、自分が死んだことで巻き起こったこの結果を、ジョエルはどう感じているのでしょうか…。
考えるだけで悲しくなってきます…。
「アビー」は本当に“悪”だったのか?
物議を醸したと言えば、「アビー」という第2の主人公もです。
ジョエルを無残に殺した張本人であり、三つ編みのヘアスタイルに男性と見違えるような屈強な体格という中々ないタイプの主人公です。
物語の中盤に突然始まるアビー編では、仲間想いであったり、敵側でも命の恩人が危険な目に合えば助けにいくという、彼女はそれほど悪い人ではない(むしろ良い人で高所恐怖症という弱点も判明)ということがわかります。
しかし、それでも「ジョエル殺し」の汚名は払拭できず、多くのプレイヤーからヘイトを集めることになった可哀そうなキャラクターです。
ジョエルを殺した原因は、“唯一の寄生菌のワクチン開発者である父”が、ジョエルに殺されたからです。(しかも前作では弓矢で射抜いたり火炎放射器で燃やしたりと殺し方をプレイヤーに委ねられていましたね…。)
「親を殺されたアビー」と「親のような関係だったジョエルを殺されたエリー」を比べると、正直どっちもどっちですが、客観的にみるとアビーは「親」と同時に「ファイアフライ」「寄生菌のワクチン」と失ったものはとても大きく、傍から見れば世界の希望よりも自分を優先し、父と多くの仲間を殺していったジョエルに恨みを募らせ嬲り殺したくなる気持ちはわからなくもないです。
アビー自身の復讐の対象は“ジョエルのみ”でした。ジョエルの弟であるトミーや殺害現場を見て全員殺してやると叫んでいたエリーをリスクはあったものの見逃します。(これがWLFにとって大惨事を招いたのですが)
残酷な殺し方をしていますが、対象を1人に絞っていたのでジョエル側の人間にこれ以上の被害が広まることはありませんでした。
物語後半のアビー編は、アビーの人物像に焦点を当てています。
アビー編は、主に「WLFで活動するアビーがエリーの復讐の裏側で何をしていたか」というものです。
任務に出たり、仲間を探したりとそれほど大きな展開はないのですが、道中でアビーがセラファイトに捕らわれたときに助けてくれた「ヤーラ」と「レブ」に出会ったあたりで、アビーの物語が大きく動き出したように思います。
ヤーラは“女性は頭を剃ってはいけない”という古臭い規律を破ったレブと共にセラファイトを抜けようとしていました。結果、捕らわれて腕を砕かれてしまいますが、ちょうど同じころに捕まっていたアビーに命を救われ、アビーの命も救うこととなります。
セラファイトの追っ手や感染者を振り切ったアビーと二人は途中で別れますが、セラファイトに追われたままの二人のことが心配になり、また命がけで二人を救い出します。
腕を砕かれたヤーラは、「コンパートメント症候群」という簡単に言うと“骨折などで血管や神経が圧迫され、壊死する恐れのある症状”を発症しており、アビーはその治療のため、極度の高所恐怖症であるにも関わらず高層ビルにある橋を渡ったり、仲間であるWLFに嘘を吐いたり、今作最大級にやばい感染者である“ラットキング”を相手にしてでもヤーラを救うため治療に必要なものを揃えようとしました。
復讐のため残忍な面を見せても、命の恩人への恩義は忘れない一面を持つ、律儀で勇敢な人物であることがわかります。
また、レブと行動を共にしていく間に、二人にはジョエルとエリーに似た絆が芽生え始めます。
助けたヤーラも母親の元へ向かったレブを助ける際に殺されてしまい、一人になったレブをWLFを裏切る形になっても助ける場面もありました。
命を救うためファイアフライを敵に回したジョエルと似たような境遇です。
その後は、エリーに殺されたオーウェンとメルを発見し、襲撃へ向かいます。
アビー自身は明確に誰がオーウェンとメルを殺したかはわかっていませんが、復讐の対象であるエリーに「二度と姿を見せないで」と言い放ち、見逃します。
ファイアフライと父を殺したジョエルを殺し、仲間を大量に殺したエリーを見逃すのは矛盾が生じますが、もしかすると、この件にレブを巻き込まないように復讐の連鎖に歯止めをかけたかったのかもしれません。
その後は、レブと共にファイアフライの生き残りの居場所を突き止めますが、ギャング集団ラトラーズに捕まってしまいます。
そして、復讐にきたエリーと決着の場面になりますが、「私はもう戦わない」と争うことを望んでいませんでしたが、レブが人質となり、戦うことに。
エリーに殺される寸前で戦いは終わり、レブと共に脱出しました。
その後のことは語られていませんが、クリア画面に脱出した時のボートとファイアフライの生き残りがいるであろうドーム形の建物が映っているので、目的地であるカタリーナ島に辿り着いたと思われます。
良い人であることを強調したり、どこかジョエルと似た境遇にさせたりと、ノーティードッグはPart3の主人公をアビーにするつもりだったのでは?と思ってしまいました。
開発途中のストーリーを大幅に変更し、アビーを生かすことで、最初は“悪”の象徴であったアビーに目を向けさせ、二人の物語を体験させた後、本当にアビーは“悪”であったのか?と疑念を抱かせるのも狙いだったのかもしれません。
しかし、ご存じの通りアビーには多くのヘイトが集まり、この仮説が事実だったとしても、Part3の主人公を務めることが難しくなってきました。
命の恩人を必死で助けるなら、いくら復讐の根源であろうと感染者の波から命を救ってくれてたジョエルにも、敬意を払って見逃してほしかったです…そうすればこんなことは…。
次回作の予想だと、ファイアフライの生き残りが集結したことで、またエリーの免疫とエリーの生存を知っているアビーに焦点がいくのでは?と思っていたのですが、こうなると、ノーティードッグが思い描いていたであろうPart3は、また大きく変わることになるかもしれませんね…。
本当の復讐の鬼は「トミー」だった説
トミーと言えば、1つの謎があります。
それは、シアトルから生還した後の性格の変化です。
トミーの言動には、所々矛盾が生じています。
まずは、ジョエルの死後のジャクソンでのことです。
エリーの家に訪れたトミーは復讐を諦める様子のないエリーに対して
「シアトルの奴らかどうかもわかっちゃいないんだぞ」
「拠点を移動していたら?」「向こうの人数だってどれだけの武器を(持っているかもわからない)」
と、復讐に対して後ろ向きなことを言います。
しかし、「1日くれ」と言ったその翌日、「俺がヤツに裁きを下す」などと書いた置手紙を残し、突然単身でシアトルに向かってしまいました。
これはジョエルに続き、エリーも死なせるわけにはいかないという考えからなのかもしれませんが、誰よりも復讐したがっていたのはトミーだったのでは、とも考えられます。
大げさに言えば“俺の獲物を取るな”ぐらいの勢いだったのかもしれません。
復讐の手口に拷問を用いたり、マリーナでWLFをスナイパーライフルで全滅まで追いやったりと、まさに復讐の鬼のようです。
実の兄を殺されたからという理由で十分なのですが、一人でWLFをここまで追い詰めるような腕の立つ人間であるとすると、彼をここまで駆り立てたのは「一緒に入ながらジョエルを守れず惨い死に方をさせてしまった」という後悔の念もあったからなのだと思います。
しかし、ジャクソンへ帰る直前の劇場で大きな痛手を負うことに。
右目と左足に後遺症を残すほどの重症を負ってしまいます。
これによりトミーは、自ら戦いに行ける体ではなくなってしまいました。
しかしジャクソンに生還した後も、取り逃したアビーの潜伏先を探っていたようです。
そして、エリーにアビーの潜伏先を伝えるところで、彼の性格が変わってしまったような場面が…。
復讐にこだわり続けた結果、マリアと距離を置くようになってしまいました。
そして、ディーナの「もう終わったことでしょ」という言葉を無視し、以前は復讐を諦めるように促していたエリーを、また復讐に駆り立てるようなことを言い始めます。
しかし、迷いがあったエリーが復讐を断ると
「“復讐してやる”ジャクソンに戻った時そう言ったよな?」「がっかりだ」
と、当初と真逆なことを言い始めたのです。元はこんなことを言う人じゃなかったはずです。
銃弾を受けたことによる脳の障害のせい、という可能性もありますが、脳というより顔の部分に銃弾を受けているように見えます。
この様子から察するに、「ジョエルを見殺しにした後悔」に加え、「アビーに戦えない体にされた恨み」が加わることで、本人のやりきれない気持ちが表れてしまったのではないかと考えられます。
自分で決着をつけるつもりが、最終的にエリーに頼るしかなくなり、断られた腹いせに捨て台詞をはいた…。
こう考えると、トミーもまた復讐の悲しい末路に辿り着いた一人になってしまったのかもしれません。(生きているだけでも良しとしましょう)
エリーがアビーを逃がしたことを知ったらどうなってしまうんでしょう…。
PartⅢが出るとしたら
そもそも、この結末と発売後の世論で続編を出せるのか微妙なところですが…。
もし、続編が出るとしたら、「ファイアフライの生き残り」が絡んでくる予感がします。
アビーもファイアフライに合流することで何かしら動きがあるはずなので、せっかく生存させることにしたのなら、ヘイトを集めたままで終わってほしくないですね。
しかしエリーはどうなるんでしょう…。指二本を失い、銃器を扱うのも難しそうです。
免疫は健在なので、前述の通り、エリーの免疫とファイアフライの復活が絡んでくると面白そうです。
そこに、未だに謎が多い寄生菌を解明させるところまでいってほしいですね。
ジョエルが死に、トミーもエリーも満足に戦えず、アビーはめちゃくちゃ嫌われた今、次の物語をどう展開していくのか…。
これほどPart2が炎上した状態で続編制作に踏み切るのなら、逆にノーティードッグの腕の見せ所になるのかもしれませんね。
長々となってしまった【考察編】は以上です。
次回は【レビュー編】になります。